KOKORO's blog

公認心理師かつ臨床心理士です。人の心に関する知識を知っていただくためにブログをはじめました。研修などの情報も転載いたします。

自閉症の人の世界

目次

 

はじめに

自閉症といえば…

 聴覚過敏があったり、見通しを持つのが苦手だったり、視覚優位の為に視覚的な手掛かりが必要だったり、拘りがあったり…というようなイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、そんな言葉だけ並べたところで、実際は自閉症といっても人によって色んな特性がありますし、妙にネガティブな印象だけが先行してしまい、リアルにイメージできる人は少ないと思います。
 といえども、自閉症スペクトラムと言われるように、重度の自閉症圏の人も軽度の自閉症圏の人も、もっと言えばその診断から遠い人も、程度の差はあれ誰しもが共通の傾向を持っていると言われていたりします。ともすれば、少し工夫するだけで、「障害」のない人が「障害」のある人の世界を理解することは可能なのではないか。
 というわけで、自閉症と診断された人の世界を、特に何ら診断を受けてない人の世界に当てはめて考えてみた自閉症の世界を少しでもイメージするのに役立つのではないかと閃き、ブログに書こうと思った次第です。

 

自閉症の世界

 唐突ですが、以下の場面について、想像してください。

  ある日レストランに行きました。当然ながら、まず靴を脱いで、それを靴箱に入れようと思います。しかし、靴箱のらしきものが見当たりません。そういや、ここは外国料理専門のレストラン。土足で上がるのが常識だろうと思って靴を脱がずに上がりました。すると、何故か店員に「土足は厳禁だ」と注意されてしまいました。
 どうにか席につきました。しかし、厨房の音、お客さんの会話、店内を流れる音楽が絡み合って騒がしく落ち着きません。
 しかも店内には時計もなく、そういう時に限って自慢の腕時計も故障して使い物になりません。時間を聞くにも店員があちらこちらを動き回っており、声を掛けるタイミングがわかりません。コードレスチャイム(テーブルに置かれてる店員を呼ぶやつ)も見当たりません。
 とりあえず、メニューに目を通してみました。しかし、やはり外国料理専門のレストランということもあり、小難しい名前の料理ばかりが並んで記載されています。しかも、料理自体の写真がないので、どんな料理なのか全く検討がつきません。
 適当に頼んだ料理が美味しくて安心しました。しかし量の少ないこと。他の料理を頼むにも一か八かになるので、無難に何度も同じ料理を頼むことにしました。しかし、何故か店員に「同じ料理ばかり頼まれると品切れするのでやめてください!!」と怒られました。ついに帰りたい気持ちでいっぱいになってしまいましたが、待ち合わせしている恋人は気分屋さんでもあるのでいつやってくるのかわからず身動きが取れません。どうやら携帯電話を使うにも電波が入ってきません。あぁ…。

 これは、誰しもが結構なストレスとして感じられる環境だと思います。しかし、実は、自閉症傾向のある方の世界を想像して記載したものです(もちろん、障がいの特性はその人によって違うので一概には言えない点について留意願います)。この世界がいわゆる「障害」のない人々を中心として作られているためにイメージがつきにくいかもですが、自閉症の人は上記と似たような世界の中で日々を過ごしているといっても過言ではないのです。
 例えば、靴箱がなければ靴をどこに置けばよいかわからず戸惑うのは当然のことですし、聴覚過敏のある方にとっては騒がしい店内は苦痛でしかありません。もしも言葉などで意思を表現する方法が絶たれていれば、困ったときに助けを求めることも出来なくなってしまいます。時計の読み方がわからなければ、「恋人はいつ来るのだろうか・・・」と見通しが持てず、不安になるのも当然のことです。自閉症の方にとっては、そういう複雑な世界の中で、ごく因果関係がわかりやすい行動(こだわり行動)を繰り返すことが安心感に繋がるのも理解できます。もしも同じ料理を頼んで何故か叱られた時のように、拘り行動によって周りから否定的な言葉かけがなされたら…ストレスによって大事に至るのも想像に容易いかもしれません(二次障害のように)。


工夫できることを探そう!

 では、自分たちはどのような工夫が出来るのでしょうか。実は、今は発達障害への理解も進み、様々な支援の方法やツールが提唱されてたりもします。


 例えば、「視覚支援」「構造化」という方法もあります。これは、空間を明確かつ視覚的にわかるように提示するというものです。靴箱の例を挙げると、明確に靴箱とわかる形で靴箱を準備しておくことです。確りと箱を準備し、場合によれば「靴箱」と表記して示したり、何なら靴を入れても良い人の名前を表記するとなお親切かもしれません。よく子ども用のトイレに入ったすぐ足元に足跡の形をした型が張られているのを見たことがあるかもしれません。それも「ここでスリッパを脱ぎましょうね」と具体的に知らせる為の視覚支援の一つだと言えます。
 加えて、タイムタイマーというのもあります。これは、時間をわかりやすくメモリや絵で目に見える形で提示してくれるタイマーのことです。自閉症の方の中には時間などの目には見えにくい抽象的な事柄を苦手とする方がいたりします。「少しだけ待って」て言われても、「少してどれくらいやねん」となりがちです。こういった場合には、具体的に「あと30秒待ってね」と伝える事が有効に働くこともあります。また、時計の針を見せて「長い針が3の所に来るまで」と伝えるのも有効で、それでも難しい場合は文字時計で示したり、それでもわからない場合はタイムタイマーや砂時計のようなもので示すことが大変有効に働くこともあるのです。その個々人の特徴にあった時間の伝え方が望まれます。
 スケジュールがわからない場合は、写真や絵を用いながら目に見える形で丁寧に伝えるのも有効です。しかし、伝えたスケジュールが急に変更することでかえって不安にさせてしまう可能性もあるので、予め予定が変更しうることも(場合によっては)説明しておく必要になります。少し複雑ですが、留意が必要です。
 また、視覚支援とは異なりますが、イヤーマフという用具もあります。これは、音をシャットアウトするために耳に装着するヘッドホンのような器具です。音に過敏な方の中には何ともない僅かな音でも不快な音に感じられる場合も少なくないので、そういった方にはイヤーマフは絶好のアイテムとなり得るのです。
 大切なのが、やはり助けを求めるタイミングや方法がわからない場合について。こういった場合も絵カードが役立ちます。「助けて」や「教えて」といった内容が伝わる絵カードを持ち歩き、いざという時に提示して伝えるわけです。言葉での表現が苦手な方には欠かせないアイテムになる得るわけです。幸い多くのレストランにはコードレスチャイムがあるので、それを押しさえすれば店員が来てくれてハイおしまいですが。僕らもそれが無かったら結構困るわけでして...それと同じです。
 最後に、拘り行動についてですが、基本は安心するために繰り返していることが多いようです。慣れた流れで毎回同じ反応が返ってくることに安心するのは誰でも同じなはずです(決まった料理を頼みたくなるのとそない変わらないと思います)。こういったこだわり行動がみられる場合は、他に代わる行動に置き換えることもできます。しかし、余程本人や周りにとって不利益となる場合を除いては、そのまま続けてもらうのが良いだろうと思います。大抵は安心感を得るために繰り返している場合が多いからです(誰の迷惑にもなってなかったら別にいいですよね?それに、変に正そうとすることでかえって他の拘りを増やしてしまうことが結構あります。時に受け入れるキャパも必要です)。

 

さいごに

 以上、自閉症の人の世界(想像にすぎないですが)と出来うる工夫について説明しました。かれこれ数年前になりますが、障害者差別解消法も制定されました。そのことより、当事者の方々への理解や支援も今後に期待されます。上記には様々なツールについても紹介しましたが、一番は人々の「理解」のあり方です。イヤーマフをつけるのも良いけども、その前に刺激の多い所を避ける等の支援方法もあることを忘れずに。また、周囲が確りと予定を守ったり、言語的にであっても分かりやすく具体的に伝えていくのが基礎になります。

 このような話をすると、「スキルを磨かなくてもよいのか」と主張される場合があります。しかし、決してそうではありません。私が伝えたいのは、その「スキル」や「能力」の獲得さえも、置かれている環境によって大きく左右するということです。つまり、スキルの獲得を目指したいのであれば、より詳細にアセスメントした上で適切な環境を整え、その安心できる環境の中でスキルや能力を学ぶ事が近道なのです。

その人がその人のままで生活できるように必要なスキルを身につけるためには、その人の能力を高めようするだけではなく、環境を整えることを検討するのも大変必要な支援なんだということは意識していて損はないかと思います。
 以上、自戒の意味を込めて。

※ 現在では発達障害が神経発達症と言われるように、様々な症状において診断名が変更されていることを書き加えさせていただきます。


推薦図書

・佐々木正美(著)

アスペルガーを生きる子どもたちへ」

自閉症児のためのTEACCHハンドブック」 

・佐藤剛(監)永井洋一/浜田昌義(編)

「感覚統合Q&A 子どもの理解と援助のために」