KOKORO's blog

公認心理師かつ臨床心理士です。人の心に関する知識を知っていただくためにブログをはじめました。研修などの情報も転載いたします。

児童福祉施設における性問題行動のある子どもへのアプローチ

 この度、はじめてブログを書かせていただきます。私はこれまで児童福祉施設等で心理担当として勤務させていただいたので、その経験と知識を活かし、今回は、児童福祉施設にて性加害行為のある子どもへのアプローチについて説明できればと思います。稚拙でありかなり専門的な内容となっており難しいかもしれませんが、興味のある方は是非ご一読お願いいたします!

目次

はじめに

  性加害者へのアプローチの一つに、心理教育プログラムがあります。これは、一般的に想像されるカウンセリングなどとは異なり、治療教育的な要素が強い方法となります。誰がこういった直接的なプログラムの提供を担当するかについては様々な意見がありますが、主に生活に関わる機会の少ない専門家が担当することが望ましいとされています(生活担当職員が実施する場合は児童と身近に関わる機会が多いことより負担が大きくなりすぎたり、心理教育プログラム自体が心理教育の経験に長けた専門性が必要となるため)。一方で、加害者と身近に関わる者の方が出来るアプローチは多岐にあるといいます。例えば、子どもの行動をモニタリングしたり、面接場面でプログラムをもとに学んだ内容(境界線のルール、間違った道、リラックスの方法など)を生活の中で取り入れていく、相談相手になり励ますといったサポートです。面接場面では一部分でしか学ぶことが出来ませんが、日常生活の中でも取り入れる事で日常的な学習につなげることができます。それらは、厳密なアセスメントに基づき(あるいはアセスメントをしながら)、実施されます。下記に、そのアセスメントの説明と、心理教育プログラムについて説明します。


アセスメントについて

 非行や犯罪に絡むケースに関しては、多大な情報に基づくアセスメントが必要になります(例えば、医師の診断、被虐待の有無、性に関する本人の関心、対人関係、余暇の過ごし方、本人の強み、成育歴、経済面など)。また、日常的な情報に加え、対象児がどんな場合に犯罪や問題行動をこれまで起こしてきたのか、今後どのようなリスクがあるのか(リスクアセスメント)、なども含まれます。今後のリスクとなる部分(例えば、性的な攻撃性の程度や本人の性的被害体験、養育者の一貫性など)とそれを軽くする可能性のある部分(例えば、非行に対する責任の受容や認知の歪み、怒りのマネージメント、ポジティブなサポート体制など)をアセスメントすることで、再犯防止のプログラムが立てやすくなります。こういった性加害のアセスメントは、生物、心理、社会的な側面を観察法、心理検査法、面接法、調査法によって捉えていく事になります。また、リスクをアセスメントするツールの一つとして、”J-SOAP2”という質問紙を用いる方法もあります。これらを明らかにすることで、変化の可能性やアプローチすると有効な部分を推測するのに役立ちます。


性加害者への心理教育プログラムについて

 現在、主流となっている心理教育プログラムのためのワークブックには、“回復への道のり ロードマップ第3版”や“性問題行動のある知的障がい者のための16ステップ”があり、それはリラプスリプリベンションモデル(再犯防止のためのモデル)とグッドライフモデル(よりよい生活を目指すためのモデル)の合わさったものになります。字数が多く問いも抽象的であり、内容が少し難しくなるので、活用するのに不向きな子どももいます。
 心理教育プログラムの構成要素には、動機づけ、サポーターの確認、性問題の定義、認知の歪み、感情の学習、境界線の学習、共感性の強化、犯行プロセスの作成、再犯防止計画の作成、性に関する知識など…大量にあります(この説明については今回は省略させていただきます)。
 つまりは、環境的な支えを検討しつつ、被面接者の変化への動機づけを高め、感情・性知識・社会的スキルなどの学習や認知の修正を試みながら、介入プランを作成。介入プランを完成させると、それを実施し、介入プランを再検討し、再犯防止につなげていくということになります。
 ちなみに、プログラムにはグループで行うものと個別的に(一対一で)行うものがあります。グループでは、メンバー間で再犯防止に向けて励まし合え、他者の視点も学ぶことができます。また、面接者が伝えると抵抗を感じることもグループで話し合うと納得しやすいようです(メンバー同士で思考の誤りを報告し合うワークもあります)。また、グループではスタッフが多いので、介入が間違った方向に流れず、心理教育によって本人の力だけでなく様々な支援者の力も借りられます。一方で、個別プログラムでは、対象者の具体的な情報がグループに漏れないように配慮でき、個別的な情報から支援できます。

 

犯行のプロセス・再犯防止(行動サイクルと介入プラン作成)

 サイクルのモデルには、一直線モデル(出来事→思考→感情→行動→結果)と螺旋モデル(出来事→思考→感情→行動→結果・出来事→思考→…と繋がる)があります。一度限りの反社会的行動や犯行は一直線モデルで説明されますが、非行や再犯を何度も繰り返す場合は螺旋モデルの方が理解しやすい場合が多いようです。実際にはそれぞれの要素(環境-思考-感情-行動)の因果関係は曖昧であり(皆が理解してくれないから暴力に至るのか、すぐに暴力に至るから皆が理解してくれないのか…など)、様々な要因は相互に影響を及ぼし合っています。そのため、一部分への介入のみで全体に影響を及ぼすことが多くあります。
 介入プラン作成は、犯行のサイクルを明確したうえで、介入できる部分を検討していく作業になります。深呼吸をしたり、その場を離れたり、誰かに助けを求めたり…ということです。これらを生活の中へ取り入れるためには、サポーターの協力が必要なことは言うまでもありません。
 以上に述べたことが、基本的には性加害者への心理教育では行われることになります。もちろん、子どもによっては実施が困難な場合もあり、その場合はその子どもにあった方法が適用されることになります。


施設職員(サポーター)が出来る事について

 以上から、施設職員ができることは以下の点があげられるのではと思われます。

  1. アセスメント(情報収集や、対象者の行動観察、ツールを用いてのアセスメント)
  2. 環境調整(関係機関との調整、他者との関係づくりや生活空間の構造化、性刺激となる情報の制限)
  3. モニタリング(サポーターとして対象者の様子を見守ったり、相談相手になり、治療にむけて励ます)
  4. 実践(性教育的な部分やソーシャルスキルなどについて学習する機会を与え、生活の中で実践する。また、面接にて考えた介入プランや対処方法、適切な行動も、生活の中で取り入れてサポートしていく)

 

さいごに

 以上には、アセスメントの方法と心理教育プログラムの構成要素、治療的介入、サポーターの重要性について説明させていただきました。繰り返しになりますが、性加害者が再犯防止に向けて効率よくプログラムを成し遂げるためには、サポーターの支えは欠かせないのです。そもそも、僕がブログにてこの内容を書こうと思ったのは、その事を伝えたかった為でもあります。心理教育を実施する上で、サポーターの役割が心理教育以上に重要な役割を持っているのです。
そのことを踏まえ、心理教育に携わる方は子どもと関わって考えていただければと思っています(なんて偉そうな)。
子どもの性加害の再犯防止に取り組まれている先生方、再犯防止に向けて努力されている子どもたち、または性被害者を出さないように努力されている先生方にとって、何かヒントとなると幸いです。



参考文献

Hunter,J.A.(2011)高岸幸弘訳(2012)性問題行動を抱える青年の認知行動療法 治療者向けマニュアル.日本評論社
Kahn,T.J.(2007)藤岡淳子監訳(2009)性問題行動・性犯罪の治療教育3 回復への道のり ロードマップ 性問題行動のある児童および性問題行動のある知的障害をもつ少年少女のために.誠信書房
Krisyan Hansen&Timothy J.kahn(2006)本多隆司,伊庭千惠監訳(2009)性問題行動のある知的障がい者のための16ステップ「フットプリント」心理教育ワークブック
藤岡淳子(2006)性暴力の理解と治療教育. 誠信書房