KOKORO's blog

公認心理師かつ臨床心理士です。人の心に関する知識を知っていただくためにブログをはじめました。研修などの情報も転載いたします。

自分と相手を大切にする技能 ~傾聴スキルと自己主張スキル~

目次

はじめに

今回は「自分と相手を大切にする技能 ~傾聴スキルと自己主張スキル~」についてお話します。

私が何故このテーマを取り上げようと思ったかと言うと、私自身が心理職として働く中で、これらのスキルを求められることが沢山あったから、というのがあります。例えば、カウンセリング等の心理支援は傾聴スキルが基盤になっていますし、多職種と連携するにはお互いに意見を伝える関係を構築する必要があり、自己主張スキルが欠かせませんでした。

日々私自身が戸惑いながら向き合ってきたこのテーマについて取り上げることで、同じように戸惑っている人のヒントになるのではと考えた次第です。

 

傾聴スキルと自己主張スキル

「傾聴スキル」とは相手の話に耳を傾けて正しく理解する技能の事です。また、「自己主張スキル」とは、相手に不快な思いをさせず、適切に自分の感情や考えを伝える技能のことを指します。他方、書籍によっては「相手と自分自身の双方を大切にする対人スキル」と説明しているものもあります。

何故これらのスキルが重要なのかというと、スキルを身につけることで様々な恩恵を受けられるからです。例えば、当然ながら①良好な人間関係の構築にも役立ちますし、また②自身のストレスの緩和さらには人間関係が改善したり環境改善やメンタルへの不調が改善されることで③身体への負担の軽減にも役立つ事がわかっています。要するに、このスキルは、心‐体‐環境において肯定的な良い影響を与える、誰もが身につけて役立つスキルであると言えるかもしれません。

 

「傾聴スキル」5つの要素

「傾聴」には非常に様々な理論や技法が提唱されています。特に、その中でも5つの要素(ボディランゲージ、相槌、反射、言い換え、要約)が強調されがちです。そこで、以下にそれら5つの要素について簡単に説明します。

 

ボディランゲージ

身体を使った非言語によるコミュニケーションの側面です。この側面(ノンバーバルコミュニケーション)から伝わる情報量は言語によるもの(バーバルコミュニケーション)より比重が大きいことがわかっています。ボディランゲージには視線、表情、姿勢、仕草等などが含まれています。

相槌

相手の話すタイミングに合わせて「うん」「なるほど」「はい」などの相槌を入れることで「聴いている」と伝えられます。「うん」という相槌ひとつをとっても「うん」「う~ん」「うんうんうん」など多様にあり、バリュエーションの豊富な相槌の方法を身に着けると良いと言われています。その相槌の仕方やタイミングによって、伝わるメッセージの幅も広がります。

反射

相手の言葉をそのまま伝え返す方法になります。例えば、「残業が続いて疲れてきました」という仕事仲間に対して〈残業が続いて疲れたんですね〉とそのまま伝え返す等です。相手へ正しく話を理解していると伝えられると同時に、話に追従していくためにも役立ちます。

言い換え

要点を絞って簡潔に聞き手の言葉で伝え返す方法です。例えば、「担当が増えたので毎日残業しても終わらずどうすればいいかわかりません」と訴える部下に対して、〈担当業務を効率よくこなすコツがまだつかめていないのですね〉と答えるような場合です。話し手の語りを聴いた後に自分の理解が正しいかを確認したり理解を修正するのに役立ちます。

要約

語り手が一通り話し終えた後で要約する作業です。相手の話を聴いた後で〈つまり〇〇で、△△だから▢▢なのですね〉などと要約して伝えることで、話を整理出来たり、自分の理解が正確かを確認することが出来ます。

 

これらの要素を意識して聴くことで、相手の考えや感情を正しく理解でき、相手に聴こうとしている姿勢が伝わり、相手の気持ちを和らげる、という効果が期待されます。実際には他にも大切な要素(例えば、沈黙の扱いや、自己一致、質問方法など)もありますが、今回は省略させていただきます。

 

「自己主張スキル」3つのステップ

自己主張スキルも様々なやり方が提唱されています。中でも、以下に記述した「3つのステップ」はわかりやすく試しやすいものだと思います。

ステップ1

相手の問題行動について述べるものです。出来得る限り客観的かつ簡潔に述べることが望ましいとされています。幾つもの問題行動を一度に伝えようとすると結局何が悪かったのか伝わりませんし、かえって反発を生むこともあり得ます。

ステップ2

ステップ1で伝えた相手の問題行動が、自分にどのような影響を与えるのかを説明するものです。この過程を辿ることで、自分への影響がどの程度現実的に生じうるものかを客観的に評価できます。

ステップ3

相手の行動によって自分がどのような感情になるかをハッキリと述べるものです。ここでのポイントは、"ハッキリと"述べることにあります。自分の感情を明確に表明することに抵抗がある方も多いと思いますが、過小に伝えることで「大した問題ではないんだ」と捉えられてしまう可能性があります。自分の感情をしっかりと洞察することで気持ちを落ち着けつつ、その感情を明確に述べることで事の重大さを相手に伝える事ができます。

上記のステップに従って主張するとすれば、例えば「職場に電話してきて長話をされると、仕事のスケジュールが狂うから、困る」のようになります。このステップを意識して自己主張を行うことで、相手にとっても整理され理解しやすくなりますし、何より自分自身の感情や考えを客観的に捉えることができます。

 

自己主張で最も大切なこと

とはいえ、自己主張ばかりを続けることで、かえって相手から反発されたり、相手を構えさせてしまう(防衛的にさせてしまう)ことはよくあります。そこで大切なのか、自己主張は相手の話を聴いてこそ成り立つと言うことです。

具体的には、自己主張→待つ→傾聴→自己主張→待つ→傾聴→・・・を繰り返すという形を取ることになります。

自己主張をした後に待つことで相手が考えたり主張するタイミングを作り、相手が話した時に丁寧かつ時間をかけて真剣に聴く事で防衛的な態度を緩めることができるかもしれません。

それを何度も繰り返すことで、自分の主張が伝わりやすくなり、相手の主張を正しく理解でき、客観的に状況を把握できて冷静になれる場合が多くあります。

さいごに

今回はかなり簡潔に説明させていただきました。実際の傾聴はもっと複雑で、多くのスキルが必要になるほどに容易ではありません。また時と場合により有効な自己主張スキルの使い方も変わってくることでしょう。

しかし、今回の「自己主張は相手の話を聴いてこそ成り立つ」というのは、どのような対人コミュニケーションにおいても欠かせないポイントであると思います。是非、今回のブログの内容をご参考に頂き、

傾聴しつつ適切に自己主張することでより良い人間関係をつくっていきましょう!

 

ご閲覧ありがとうございました!

 

推薦図書

「ピープル・スキル 人と“うまくやる”3つの技術」ロバート・ボルトン(著)

自閉症の人の世界

目次

 

はじめに

自閉症といえば…

 聴覚過敏があったり、見通しを持つのが苦手だったり、視覚優位の為に視覚的な手掛かりが必要だったり、拘りがあったり…というようなイメージを持っている方も多いかもしれません。しかし、そんな言葉だけ並べたところで、実際は自閉症といっても人によって色んな特性がありますし、妙にネガティブな印象だけが先行してしまい、リアルにイメージできる人は少ないと思います。
 といえども、自閉症スペクトラムと言われるように、重度の自閉症圏の人も軽度の自閉症圏の人も、もっと言えばその診断から遠い人も、程度の差はあれ誰しもが共通の傾向を持っていると言われていたりします。ともすれば、少し工夫するだけで、「障害」のない人が「障害」のある人の世界を理解することは可能なのではないか。
 というわけで、自閉症と診断された人の世界を、特に何ら診断を受けてない人の世界に当てはめて考えてみた自閉症の世界を少しでもイメージするのに役立つのではないかと閃き、ブログに書こうと思った次第です。

 

自閉症の世界

 唐突ですが、以下の場面について、想像してください。

  ある日レストランに行きました。当然ながら、まず靴を脱いで、それを靴箱に入れようと思います。しかし、靴箱のらしきものが見当たりません。そういや、ここは外国料理専門のレストラン。土足で上がるのが常識だろうと思って靴を脱がずに上がりました。すると、何故か店員に「土足は厳禁だ」と注意されてしまいました。
 どうにか席につきました。しかし、厨房の音、お客さんの会話、店内を流れる音楽が絡み合って騒がしく落ち着きません。
 しかも店内には時計もなく、そういう時に限って自慢の腕時計も故障して使い物になりません。時間を聞くにも店員があちらこちらを動き回っており、声を掛けるタイミングがわかりません。コードレスチャイム(テーブルに置かれてる店員を呼ぶやつ)も見当たりません。
 とりあえず、メニューに目を通してみました。しかし、やはり外国料理専門のレストランということもあり、小難しい名前の料理ばかりが並んで記載されています。しかも、料理自体の写真がないので、どんな料理なのか全く検討がつきません。
 適当に頼んだ料理が美味しくて安心しました。しかし量の少ないこと。他の料理を頼むにも一か八かになるので、無難に何度も同じ料理を頼むことにしました。しかし、何故か店員に「同じ料理ばかり頼まれると品切れするのでやめてください!!」と怒られました。ついに帰りたい気持ちでいっぱいになってしまいましたが、待ち合わせしている恋人は気分屋さんでもあるのでいつやってくるのかわからず身動きが取れません。どうやら携帯電話を使うにも電波が入ってきません。あぁ…。

 これは、誰しもが結構なストレスとして感じられる環境だと思います。しかし、実は、自閉症傾向のある方の世界を想像して記載したものです(もちろん、障がいの特性はその人によって違うので一概には言えない点について留意願います)。この世界がいわゆる「障害」のない人々を中心として作られているためにイメージがつきにくいかもですが、自閉症の人は上記と似たような世界の中で日々を過ごしているといっても過言ではないのです。
 例えば、靴箱がなければ靴をどこに置けばよいかわからず戸惑うのは当然のことですし、聴覚過敏のある方にとっては騒がしい店内は苦痛でしかありません。もしも言葉などで意思を表現する方法が絶たれていれば、困ったときに助けを求めることも出来なくなってしまいます。時計の読み方がわからなければ、「恋人はいつ来るのだろうか・・・」と見通しが持てず、不安になるのも当然のことです。自閉症の方にとっては、そういう複雑な世界の中で、ごく因果関係がわかりやすい行動(こだわり行動)を繰り返すことが安心感に繋がるのも理解できます。もしも同じ料理を頼んで何故か叱られた時のように、拘り行動によって周りから否定的な言葉かけがなされたら…ストレスによって大事に至るのも想像に容易いかもしれません(二次障害のように)。


工夫できることを探そう!

 では、自分たちはどのような工夫が出来るのでしょうか。実は、今は発達障害への理解も進み、様々な支援の方法やツールが提唱されてたりもします。


 例えば、「視覚支援」「構造化」という方法もあります。これは、空間を明確かつ視覚的にわかるように提示するというものです。靴箱の例を挙げると、明確に靴箱とわかる形で靴箱を準備しておくことです。確りと箱を準備し、場合によれば「靴箱」と表記して示したり、何なら靴を入れても良い人の名前を表記するとなお親切かもしれません。よく子ども用のトイレに入ったすぐ足元に足跡の形をした型が張られているのを見たことがあるかもしれません。それも「ここでスリッパを脱ぎましょうね」と具体的に知らせる為の視覚支援の一つだと言えます。
 加えて、タイムタイマーというのもあります。これは、時間をわかりやすくメモリや絵で目に見える形で提示してくれるタイマーのことです。自閉症の方の中には時間などの目には見えにくい抽象的な事柄を苦手とする方がいたりします。「少しだけ待って」て言われても、「少してどれくらいやねん」となりがちです。こういった場合には、具体的に「あと30秒待ってね」と伝える事が有効に働くこともあります。また、時計の針を見せて「長い針が3の所に来るまで」と伝えるのも有効で、それでも難しい場合は文字時計で示したり、それでもわからない場合はタイムタイマーや砂時計のようなもので示すことが大変有効に働くこともあるのです。その個々人の特徴にあった時間の伝え方が望まれます。
 スケジュールがわからない場合は、写真や絵を用いながら目に見える形で丁寧に伝えるのも有効です。しかし、伝えたスケジュールが急に変更することでかえって不安にさせてしまう可能性もあるので、予め予定が変更しうることも(場合によっては)説明しておく必要になります。少し複雑ですが、留意が必要です。
 また、視覚支援とは異なりますが、イヤーマフという用具もあります。これは、音をシャットアウトするために耳に装着するヘッドホンのような器具です。音に過敏な方の中には何ともない僅かな音でも不快な音に感じられる場合も少なくないので、そういった方にはイヤーマフは絶好のアイテムとなり得るのです。
 大切なのが、やはり助けを求めるタイミングや方法がわからない場合について。こういった場合も絵カードが役立ちます。「助けて」や「教えて」といった内容が伝わる絵カードを持ち歩き、いざという時に提示して伝えるわけです。言葉での表現が苦手な方には欠かせないアイテムになる得るわけです。幸い多くのレストランにはコードレスチャイムがあるので、それを押しさえすれば店員が来てくれてハイおしまいですが。僕らもそれが無かったら結構困るわけでして...それと同じです。
 最後に、拘り行動についてですが、基本は安心するために繰り返していることが多いようです。慣れた流れで毎回同じ反応が返ってくることに安心するのは誰でも同じなはずです(決まった料理を頼みたくなるのとそない変わらないと思います)。こういったこだわり行動がみられる場合は、他に代わる行動に置き換えることもできます。しかし、余程本人や周りにとって不利益となる場合を除いては、そのまま続けてもらうのが良いだろうと思います。大抵は安心感を得るために繰り返している場合が多いからです(誰の迷惑にもなってなかったら別にいいですよね?それに、変に正そうとすることでかえって他の拘りを増やしてしまうことが結構あります。時に受け入れるキャパも必要です)。

 

さいごに

 以上、自閉症の人の世界(想像にすぎないですが)と出来うる工夫について説明しました。かれこれ数年前になりますが、障害者差別解消法も制定されました。そのことより、当事者の方々への理解や支援も今後に期待されます。上記には様々なツールについても紹介しましたが、一番は人々の「理解」のあり方です。イヤーマフをつけるのも良いけども、その前に刺激の多い所を避ける等の支援方法もあることを忘れずに。また、周囲が確りと予定を守ったり、言語的にであっても分かりやすく具体的に伝えていくのが基礎になります。

 このような話をすると、「スキルを磨かなくてもよいのか」と主張される場合があります。しかし、決してそうではありません。私が伝えたいのは、その「スキル」や「能力」の獲得さえも、置かれている環境によって大きく左右するということです。つまり、スキルの獲得を目指したいのであれば、より詳細にアセスメントした上で適切な環境を整え、その安心できる環境の中でスキルや能力を学ぶ事が近道なのです。

その人がその人のままで生活できるように必要なスキルを身につけるためには、その人の能力を高めようするだけではなく、環境を整えることを検討するのも大変必要な支援なんだということは意識していて損はないかと思います。
 以上、自戒の意味を込めて。

※ 現在では発達障害が神経発達症と言われるように、様々な症状において診断名が変更されていることを書き加えさせていただきます。


推薦図書

・佐々木正美(著)

アスペルガーを生きる子どもたちへ」

自閉症児のためのTEACCHハンドブック」 

・佐藤剛(監)永井洋一/浜田昌義(編)

「感覚統合Q&A 子どもの理解と援助のために」

 

児童福祉施設における性問題行動のある子どもへのアプローチ

 この度、はじめてブログを書かせていただきます。私はこれまで児童福祉施設等で心理担当として勤務させていただいたので、その経験と知識を活かし、今回は、児童福祉施設にて性加害行為のある子どもへのアプローチについて説明できればと思います。稚拙でありかなり専門的な内容となっており難しいかもしれませんが、興味のある方は是非ご一読お願いいたします!

目次

はじめに

  性加害者へのアプローチの一つに、心理教育プログラムがあります。これは、一般的に想像されるカウンセリングなどとは異なり、治療教育的な要素が強い方法となります。誰がこういった直接的なプログラムの提供を担当するかについては様々な意見がありますが、主に生活に関わる機会の少ない専門家が担当することが望ましいとされています(生活担当職員が実施する場合は児童と身近に関わる機会が多いことより負担が大きくなりすぎたり、心理教育プログラム自体が心理教育の経験に長けた専門性が必要となるため)。一方で、加害者と身近に関わる者の方が出来るアプローチは多岐にあるといいます。例えば、子どもの行動をモニタリングしたり、面接場面でプログラムをもとに学んだ内容(境界線のルール、間違った道、リラックスの方法など)を生活の中で取り入れていく、相談相手になり励ますといったサポートです。面接場面では一部分でしか学ぶことが出来ませんが、日常生活の中でも取り入れる事で日常的な学習につなげることができます。それらは、厳密なアセスメントに基づき(あるいはアセスメントをしながら)、実施されます。下記に、そのアセスメントの説明と、心理教育プログラムについて説明します。


アセスメントについて

 非行や犯罪に絡むケースに関しては、多大な情報に基づくアセスメントが必要になります(例えば、医師の診断、被虐待の有無、性に関する本人の関心、対人関係、余暇の過ごし方、本人の強み、成育歴、経済面など)。また、日常的な情報に加え、対象児がどんな場合に犯罪や問題行動をこれまで起こしてきたのか、今後どのようなリスクがあるのか(リスクアセスメント)、なども含まれます。今後のリスクとなる部分(例えば、性的な攻撃性の程度や本人の性的被害体験、養育者の一貫性など)とそれを軽くする可能性のある部分(例えば、非行に対する責任の受容や認知の歪み、怒りのマネージメント、ポジティブなサポート体制など)をアセスメントすることで、再犯防止のプログラムが立てやすくなります。こういった性加害のアセスメントは、生物、心理、社会的な側面を観察法、心理検査法、面接法、調査法によって捉えていく事になります。また、リスクをアセスメントするツールの一つとして、”J-SOAP2”という質問紙を用いる方法もあります。これらを明らかにすることで、変化の可能性やアプローチすると有効な部分を推測するのに役立ちます。


性加害者への心理教育プログラムについて

 現在、主流となっている心理教育プログラムのためのワークブックには、“回復への道のり ロードマップ第3版”や“性問題行動のある知的障がい者のための16ステップ”があり、それはリラプスリプリベンションモデル(再犯防止のためのモデル)とグッドライフモデル(よりよい生活を目指すためのモデル)の合わさったものになります。字数が多く問いも抽象的であり、内容が少し難しくなるので、活用するのに不向きな子どももいます。
 心理教育プログラムの構成要素には、動機づけ、サポーターの確認、性問題の定義、認知の歪み、感情の学習、境界線の学習、共感性の強化、犯行プロセスの作成、再犯防止計画の作成、性に関する知識など…大量にあります(この説明については今回は省略させていただきます)。
 つまりは、環境的な支えを検討しつつ、被面接者の変化への動機づけを高め、感情・性知識・社会的スキルなどの学習や認知の修正を試みながら、介入プランを作成。介入プランを完成させると、それを実施し、介入プランを再検討し、再犯防止につなげていくということになります。
 ちなみに、プログラムにはグループで行うものと個別的に(一対一で)行うものがあります。グループでは、メンバー間で再犯防止に向けて励まし合え、他者の視点も学ぶことができます。また、面接者が伝えると抵抗を感じることもグループで話し合うと納得しやすいようです(メンバー同士で思考の誤りを報告し合うワークもあります)。また、グループではスタッフが多いので、介入が間違った方向に流れず、心理教育によって本人の力だけでなく様々な支援者の力も借りられます。一方で、個別プログラムでは、対象者の具体的な情報がグループに漏れないように配慮でき、個別的な情報から支援できます。

 

犯行のプロセス・再犯防止(行動サイクルと介入プラン作成)

 サイクルのモデルには、一直線モデル(出来事→思考→感情→行動→結果)と螺旋モデル(出来事→思考→感情→行動→結果・出来事→思考→…と繋がる)があります。一度限りの反社会的行動や犯行は一直線モデルで説明されますが、非行や再犯を何度も繰り返す場合は螺旋モデルの方が理解しやすい場合が多いようです。実際にはそれぞれの要素(環境-思考-感情-行動)の因果関係は曖昧であり(皆が理解してくれないから暴力に至るのか、すぐに暴力に至るから皆が理解してくれないのか…など)、様々な要因は相互に影響を及ぼし合っています。そのため、一部分への介入のみで全体に影響を及ぼすことが多くあります。
 介入プラン作成は、犯行のサイクルを明確したうえで、介入できる部分を検討していく作業になります。深呼吸をしたり、その場を離れたり、誰かに助けを求めたり…ということです。これらを生活の中へ取り入れるためには、サポーターの協力が必要なことは言うまでもありません。
 以上に述べたことが、基本的には性加害者への心理教育では行われることになります。もちろん、子どもによっては実施が困難な場合もあり、その場合はその子どもにあった方法が適用されることになります。


施設職員(サポーター)が出来る事について

 以上から、施設職員ができることは以下の点があげられるのではと思われます。

  1. アセスメント(情報収集や、対象者の行動観察、ツールを用いてのアセスメント)
  2. 環境調整(関係機関との調整、他者との関係づくりや生活空間の構造化、性刺激となる情報の制限)
  3. モニタリング(サポーターとして対象者の様子を見守ったり、相談相手になり、治療にむけて励ます)
  4. 実践(性教育的な部分やソーシャルスキルなどについて学習する機会を与え、生活の中で実践する。また、面接にて考えた介入プランや対処方法、適切な行動も、生活の中で取り入れてサポートしていく)

 

さいごに

 以上には、アセスメントの方法と心理教育プログラムの構成要素、治療的介入、サポーターの重要性について説明させていただきました。繰り返しになりますが、性加害者が再犯防止に向けて効率よくプログラムを成し遂げるためには、サポーターの支えは欠かせないのです。そもそも、僕がブログにてこの内容を書こうと思ったのは、その事を伝えたかった為でもあります。心理教育を実施する上で、サポーターの役割が心理教育以上に重要な役割を持っているのです。
そのことを踏まえ、心理教育に携わる方は子どもと関わって考えていただければと思っています(なんて偉そうな)。
子どもの性加害の再犯防止に取り組まれている先生方、再犯防止に向けて努力されている子どもたち、または性被害者を出さないように努力されている先生方にとって、何かヒントとなると幸いです。



参考文献

Hunter,J.A.(2011)高岸幸弘訳(2012)性問題行動を抱える青年の認知行動療法 治療者向けマニュアル.日本評論社
Kahn,T.J.(2007)藤岡淳子監訳(2009)性問題行動・性犯罪の治療教育3 回復への道のり ロードマップ 性問題行動のある児童および性問題行動のある知的障害をもつ少年少女のために.誠信書房
Krisyan Hansen&Timothy J.kahn(2006)本多隆司,伊庭千惠監訳(2009)性問題行動のある知的障がい者のための16ステップ「フットプリント」心理教育ワークブック
藤岡淳子(2006)性暴力の理解と治療教育. 誠信書房